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1. アラビア語はどんな言語か

文字を覚える前に、アラビア語という言語が日本語とどう違うのかを頭に入れておきます。ここを理解しておくと、以降の学習で「なぜそうなるのか」が分かりやすくなります。

1. 右から左へ書く

アラビア語は右から左へ読み書きします。

مَرْحَبًا

この単語は mar-ḥa-ban(こんにちは)と読みます。一番右の مm、その左の رr、という順です。

ただし数字だけは左から右に書きます。٢٠٢٦ は「2026」であって「6202」ではありません。アラビア語の文章に数字が混ざると、その部分だけ流れが逆になります。

2. 文字がつながって形を変える

これがアラビア文字の最大の特徴であり、初学者が最初に戸惑う点です。

アラビア文字には大文字・小文字の区別がありません。その代わり、同じ文字が、単語の中のどこに来るかによって4種類の形に変化します。日本語の筆記体をイメージすると近いですが、アラビア語では活字でも常につながります。

例えば بb の音)という文字は、次のように姿を変えます。

位置
単独ب
語頭بـبَيْت (bayt / 家)
語中ـبـكَبِير (kabīr / 大きい)
語尾ـبكِتَاب (kitāb / 本)

一見4倍の暗記量に思えますが、実際には点の数と位置以外はほぼ同じ骨格で、変化のパターンにも規則性があります。詳しくは次のページで扱います。

3. 短い母音は普段書かれない

アラビア語の文字28個は、すべて子音です。母音は文字ではなく、子音の上下に付ける小さな記号(ハラカ)で表します。

そして、このハラカは日常の文章では省略されます

表記読み
ハラカ付き(学習用)كَتَبَkataba(彼は書いた)
ハラカなし(実際の文章)كتب

كتب という3文字(k-t-b)だけを見せられたとき、それが kataba(彼は書いた)なのか kutub(本[複数])なのか kutiba(書かれた)なのかは、文脈から判断します

日本語で「一日」を「ついたち」と読むか「いちにち」と読むかを文脈で決めているのと似た事情です。慣れるまでは大変ですが、この負担を減らすため、このサイトの教材では原則としてハラカを付けて表記しています。

ハラカ表示の切り替え

このサイトの多くのページでは、設定ページからハラカの表示・非表示を切り替えられます。学習が進んだら、ハラカを消して読む練習をしてみてください。ただしこのセクション(文字と発音)ではハラカが学習内容そのものなので、常に表示されます。

ハラカが省略される文章を、母語話者は文脈で読み分けます。クルアーンや児童書、詩、そして辞書には最初からハラカが付いています。

4. 語尾の母音が、日本語の助詞の役割をする

日本語は「が」「を」「の」といった助詞で、単語が文の中で果たす役割を示します。

  • 学生 読む

アラビア語には助詞がありません。代わりに、単語の最後の母音がその役割を担います。

日本語の助詞アラビア語の語尾例(学生 = طَالِب
〜が、〜は-uطَالِبٌ (ṭālibun)
〜を-aطَالِبًا (ṭāliban)
〜の、前置詞の後-iطَالِبٍ (ṭālibin)

英語話者にとってこれは難関ですが、助詞という発想を持つ日本語話者には、むしろ理解しやすい仕組みです。「語尾の母音=助詞」と考えれば、アラビア語の語順の自由さも納得できます。

この仕組みは 8. 格語尾の読み方 で詳しく扱います。

5. 単語は「語根」で家族を作る

アラビア語の単語の大半は、3つの子音からなる語根を骨格に持ちます。この骨格に決まったパターンで母音や接辞を入れることで、意味的に関連する単語群が作られます。

語根 ك-ت-ب(k-t-b、「書く」に関わる意味)から生まれる単語:

単語読み意味
كَتَبَkataba彼は書いた
كِتَابkitāb
مَكْتَبmaktab机、事務所(書く場所)
مَكْتَبَةmaktaba図書館、書店
كَاتِبkātib書く人、作家
مَكْتُوبmaktūb書かれたもの、手紙

漢字の部首や音読みで語彙を束ねる感覚に近いものがあります。語根を意識して単語を覚えると、暗記の効率が何倍にもなります。 知らない単語に出会っても、語根が分かれば意味の見当がつくようになります。

6. 日本語話者にとっての難所と、有利な点

先に地図を渡しておきます。

難所

項目なぜ難しいか
喉の奥の音ع ح غ خ ق は日本語に対応する音がなく、カタカナで書き分けられません
子音の連続katabtu のような子音の連続を、日本語話者は「カタブトゥ」と母音を入れて読んでしまいがちです
l と r の区別日本語のラ行は l と r の中間の音で、アラビア語では別の文字(لر)として厳密に区別されます
語尾の格変化概念自体は助詞で理解できますが、運用は練習が必要です

有利な点

項目なぜ有利か
母音の長短日本語の「おばさん/おばあさん」と同じ区別です。英語話者が苦戦する malik(王)と mālik(所有者)の区別を、日本語話者は自然にできます
子音の重複シャッダ(子音を重ねる記号)は、日本語の促音「っ」とほぼ同じ感覚です
語根の発想漢字の部首・音読みで語を束ねる習慣が、そのまま応用できます
助詞の発想格変化を「助詞が語尾に付いたもの」として理解できます

日本語話者は、アラビア語学習において英語話者より有利な点をいくつも持っています。難所は喉の音と子音連続に集中しており、そこさえ意識的に練習すれば、あとはむしろ理解しやすい言語です。


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