3. 母音記号(ハラカ)と長母音
前のページで見た28文字は、すべて子音です。では母音はどう表すのか——それがこのページの内容です。
母音は3つしかない
まず、日本語話者にとって朗報から。
アラビア語の母音は a・i・u の3つだけです。 日本語の「え」「お」に当たる母音は、原則として存在しません。
| 日本語 | アラビア語 | |
|---|---|---|
| 母音の種類 | あ・い・う・え・お(5つ) | a・i・u(3つ) |
覚える母音が5つから3つに減るわけですから、これは有利な条件です。
a は周囲の子音によって「エ」に近く聞こえたり、ص ض ط ظ ق といった重い音の近くでは「オ」に近く聞こえたりします。しかし文字の上では3つであり、書き分ける必要はありません。まずは a・i・u の3つで捉えてください。
短母音を表す3つの記号(ハラカ)
母音は文字ではなく、子音の上下に付ける小さな記号で表します。これをハラカ(حَرَكَة ḥaraka、「動き」の意)と呼びます。
例として ب(b)に付けてみます。
| 記号 | 名称 | 位置 | 例 | 読み |
|---|---|---|---|---|
| ـَ | fatḥa(فَتْحَة) | 文字の上に短い斜線 | بَ | ba |
| ـِ | kasra(كَسْرَة) | 文字の下に短い斜線 | بِ | bi |
| ـُ | ḍamma(ضَمَّة) | 文字の上に小さな و | بُ | bu |
覚え方は単純です。
- 上に線 → a
- 下に線 → i
- 上に小さい و → u(و は
ūの文字なので、uの記号もその形)
母音がないことを示す記号:スクーン
子音に母音が付かない(子音だけで終わる)ことを示す記号がスクーン(سُكُون sukūn、「静止」の意)です。文字の上に小さな丸を書きます。
| 記号 | 例 | 読み |
|---|---|---|
| ـْ | بْ | b(母音なし) |
日本語の仮名は「か=ka」「た=ta」のように、子音と母音がセットで1文字です。そのため日本語話者は、子音だけの音を発音するのが苦手で、無意識に母音を足してしまいます。
例: كَتَبْتُ(katabtu / 私は書いた)
これを「カタブトゥ」と読むと katabutu になり、別の単語に聞こえます。正しくは ka-tab-tu の3拍で、b の後に母音は入りません。
スクーンが付いている文字を見たら、そこで母音を入れないと強く意識してください。これは日本語話者にとって最大の発音上の課題です。
長母音:短母音の2倍の長さ
短母音を伸ばした音が長母音です。長母音は、短母音のハラカ+対応する文字で表します。
| 長母音 | 書き方 | 例 | 読み |
|---|---|---|---|
| ā | fatḥa ـَ + ا | بَا | bā |
| ī | kasra ـِ + ي | بِي | bī |
| ū | ḍamma ـُ + و | بُو | bū |
この3文字 ا و ي は、長母音を作るために使われるとき弱文字(حُرُوف الْعِلَّة)と呼ばれます。中級以降で「弱文字を含む動詞は活用が不規則になる」という話が出てきますが、それはこの3文字のことです。
組み合わせ一覧(ك の例)
| 書き方 | 読み | 音の長さ |
|---|---|---|
| كَ | ka | 短 |
| كِ | ki | 短 |
| كُ | ku | 短 |
| كْ | k | 母音なし |
| كَا | kā | 長(ka の2倍) |
| كِي | kī | 長 |
| كُو | kū | 長 |
長短の区別は意味を変える
ここは日本語話者が得意な領域です。
日本語で「おばさん」と「おばあさん」、「ビル」と「ビール」が別の言葉であるのと同じように、アラビア語でも母音の長さが変わると別の単語になります。
| 短母音 | 読み | 意味 | 長母音 | 読み | 意味 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| عَلَم | ʿalam | 旗 | ↔ | عَالَم | ʿālam | 世界 |
| مَلِك | malik | 王 | ↔ | مَالِك | mālik | 所有者 |
| كَتَبَ | kataba | 彼は書いた | ↔ | كَاتِب | kātib | 書く人、作家 |
英語話者はこの区別に非常に苦戦しますが、日本語には長音の区別が元からあるため、意識さえすれば自然にできます。転写の ā ī ū の横棒を見たら「伸ばす」と反射的に反応できるようにしておきましょう。
و と ي の見分け方
و と ي は、**子音(w / y)にも長母音(ū / ī)**にもなります。見分け方は次の通りです。
| 状況 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 直前の文字が ḍamma ـُ で、و 自身にハラカがない | 長母音 ū | نُور (nūr / 光) |
| 直前の文字が kasra ـِ で、ي 自身にハラカがない | 長母音 ī | كَبِير (kabīr / 大きい) |
| و ي 自身にハラカが付いている | 子音 w / y | وَلَد (walad / 少年) |
二重母音
fatḥa の後に و や ي がスクーン付きで続くと、二重母音になります。
| 書き方 | 読み | 例 |
|---|---|---|
| ـَ + ـوْ | aw | يَوْم (yawm / 日) |
| ـَ + ـيْ | ay | بَيْت (bayt / 家) |
aw は「アウ」、ay は「アイ」に近い音です。日本語の「愛」「会う」の要領で読めば問題ありません。
読んでみる
ここまでの知識だけで、実際の単語が読めます。右から左へ、1文字ずつ追ってください。
كِتَاب ・ بَيْت ・ مَدْرَسَة ・ سَلَام ・ نُور ・ كَبِير ・ وَلَد ・ يَوْم
順に kitāb(本)、bayt(家)、madrasa(学校)、salām(平和)、nūr(光)、kabīr(大きい)、walad(少年)、yawm(日)です。
すべて読めたなら、アラビア語を音にする力の土台はできています。
練習
問題 1: بَ はどう読みますか?
問題 2: 文字の「下」に付く母音記号はどれですか?
問題 3: スクーン( ـْ )は何を表しますか?
問題 4: كَبِير はどう読みますか?
問題 5: عَالَم と عَلَم の違いは何ですか?
問題 6: بَيْت はどう読みますか?
問題 7: كَتَبْتُ の正しい読み方はどれですか?
問題 8: نُور はどう読みますか?
問題 9: アラビア語の母音はいくつありますか?(半角数字で答えてください)
問題 10: مَدْرَسَة のローマ字転写を書きなさい。
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